「殺処分数が過去最少を更新した」というニュースを目にするたびに、動物を取りまく状況が少しずつ良くなっていると感じる人も多いと思います。実際、数字の上では劇的な改善が起きています。
でも実際は2024年度(2024年4月〜2025年3月)に全国の保健所等で引き取られた犬のうち、1,964頭が殺処分されました。1日あたり平均5頭以上の犬が、今も命を失い続けているのです。
数字は確かに改善している。でも、ゼロにはなっていない。
なぜ、どこが壁になっているのか。この記事では最新データをもとに、犬の殺処分問題のリアルな「現在地」と、ゼロへの道を阻む構造的なボトルネックを解説します。

数字で振り返る「劇的な改善」

数だけで見れば、2004年は15万5,870頭、2014年度が約2.1万頭の犬が殺処分されていたのが、20年間で1,964頭、すなわち79分の1以下と劇的な減少を見せています。この軌跡は、動物愛護管理法の段階的強化、行政と民間団体の連携深化、そして社会全体の動物観の変化が重なった成果。間違いなく「進歩」と言えるでしょう。

年度別・犬の殺処分数の主な推移
2004年度  約155,870頭
2012年度  約38,447頭
2014年度  約21,000頭
2022年度  2,434頭
2023年度  2,118頭
2024年度  1,964頭

出典:環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」各年度版

 

現在の殺処分は、かつての「引取れば処分する」という時代とは性質が変わっています。環境省は殺処分に至ったケースを3つに分類しています。

  1. 譲渡することが適切でないケース:治癒の見込みがない病気や重度の負傷、または著しい攻撃性がある場合。苦痛からの解放としての安楽死もここに含まれます。
  2. 譲渡先の確保や飼養管理が困難なケース:施設の収容能力の限界、里親が見つからないなど。
  3. 引取り後の死亡:病気・衰弱・事故などにより施設内で死亡したケース。

重要なのは、②のケース——つまり「家庭に迎えられる可能性があったのに処分された」ケース——が、自治体によっては限りなくゼロに近づいている一方で、①(医療的・行動上の理由)が残り続けていることです。
例えば徳島県と香川県の令和4年度の数字をみると、①と③のケースのみであり、②は0頭となっています。「施設が頑張れば解決できる問題」は相当程度解消されてきたが、もっと根本的なボトルネックが残っていることを示唆しています。

ボトルネック①「譲渡困難犬」

殺処分数削減が進んだ今、残っている最も大きな課題の一つが「譲渡困難犬」の存在です。

野犬問題——四国・九州エリアのケース
犬の殺処分が多い県では、長崎県(297頭)と高知県を除く四国の3県、香川県(273頭)、愛媛県(224頭)、徳島県(342頭)が上位となっています。この理由として、収容されている犬の大半が野犬であり、攻撃性や健康上の問題により、譲渡が困難と判断されることが挙げられます。
野犬が多い理由としては、比較的温暖な気候であることや、雑木林や河川敷が多いこと、県域が狭く住宅街と野犬の棲家が近いこと、地域住民が野犬に餌を与えることが後を絶たないことも、野犬の増加に影響を与えていると考えられています。
野犬は人との接触経験が乏しく、社会化ができていない状態で収容されます。強い警戒心や攻撃性があるため、通常の譲渡審査を通過することが難しく、施設スタッフが対応しても順化に時間と費用がかかります。このような犬こそ、「殺処分される犬の性質」の根底にある問題を示しています。

岡山市の成功モデル
一方で、このボトルネックを突破しようとしている自治体もあります。岡山市では、2017年から殺処分ゼロを達成。保健所が独自に「ZOOねるパーク」という訓練施設を開設し、野犬を捕獲後に社会化訓練を施してから里親に渡す仕組みを構築しました。
「捕まえて処分する」ではなく「捕まえて訓練して渡す」——このモデルが機能したことは、野犬問題にも解決策がないわけではないことを示しています。ただし、専門施設の設置にはコストと人材が必要で、すべての自治体が同じことを実現できるかどうかは別の問題です。

老犬・病犬・障がい犬の問題
もう一つの譲渡困難ケースが、老犬・重病犬・障がいのある犬です。これらの犬は引き取りを希望する人が少なく譲渡が難しいため、譲渡活動と同時に、たとえ新しい家族が見つからなくても、できる限り安心して最後まで幸せを感じて暮らせるような終生飼養が必要です。しかしこれらすべての保護犬の定期的なワクチン接種、避妊・去勢手術・治療などの医療ケアをはじめ、食事を提供し施設環境を維持していくには、年間10億円以上の費用が必要であると試算する団体もあります。
「譲渡できない犬を終生飼養する」という選択肢は、命を守るうえで重要ですが、それを支えるには莫大なリソースが必要になります。

ボトルネック②「保護団体の構造的な限界」

76%が無償ボランティア
現在の日本の殺処分削減は、民間の動物愛護団体が担う部分が非常に大きくなっています。全国176の団体から寄せられた声をもとに作成された「犬猫保護団体 活動白書2025」によれば、スタッフの約76%が無償のボランティアとして活動しているとあります。日々の運営は資金だけでなく、善意の時間に依存して支えられている構造となっているのです。
犬の保護経路は、行政機関(動物愛護センター等)からの引き取りが74%と主流になっています。つまり、行政の「処分しない」という方針の受け皿として民間団体が機能しているわけですが、その運営の76%が無報酬で成り立っています。
これは持続可能な構造でしょうか?

財政的な限界と「下請け化」の問題
多頭飼育崩壊は一つの事案を解決するのに長い時間と労力、そして多額の費用がかかるため、多くの保護団体が疲弊しています。また、場合によっては保護団体自体が多頭飼育崩壊を引き起こす例も散見しています。
殺処分数が減れば減るほど、「処分されなかった犬」は民間団体か自治体施設の中に留まり続けます。しかし、自治体の収容スペースも民間団体の資金も有限です。統計上の「処分数ゼロ」の陰で、施設の過密状態や運営費不足が深刻化している団体は少なくありません。

厳しすぎる譲渡条件のジレンマ
一方で、保護団体の譲渡条件が社会の変化と乖離してきているという指摘もあります。
譲渡条件の中でも最も多く目にする項目として「高齢者」「一人暮らし」に対しての条件が挙げられます。万が一飼い主の身に何か起きた際、犬だけが取り残されてしまうリスクを考慮しての項目ですが、残念ながら10〜20年前と同じスタンスでは、少子高齢化の社会や家族構成の変化に対応することは難しくなります。
確かに、善意を装って虐待をするために引き取る人物や、金銭的・労力的な余裕がないのに引き取ろうとする人が後を絶たないのも事実。犬を守りたいから条件を厳しくする——その行為自体は正しいのです。しかし条件が厳しすぎると里親が見つからず、保護犬はシェルターに留まり続けることになります。施設の過密が進めば、やがて受け入れそのものが困難になり、結果的に行政施設での処分が増える可能性も否定できません。
「厳しい審査」と「幅広い受け入れ」のバランスをどこでとるか——これは団体ごとに模索が続いている難しい問題です。

ボトルネック③「繁殖・販売の構造」

毎年2,000頭が「飼えなくなった」と保健所へ
2024年度の引き取り数17,399頭のうち、約2,010頭が飼い主からの引き渡しです。つまり、年間2,000頭もの飼い犬が、飼い主の判断で保健所に引き渡されているという事実があります。
「飼えなくなった」理由は様々ですが、転勤・引越し・経済的困窮・高齢化・家族の病気など、多くは事前の準備と情報があれば防げた可能性があります。衝動的な購入と不十分な準備——ペットショップで「かわいいから今日連れて帰る」という文化が続く限り、この数字は減りにくい構造にあります。

マイクロチップ普及の成果と課題
一方で、マイクロチップの普及は迷い犬の返還率を大幅に改善しています。2023年度の統計では、引き取られた犬19,352頭のうち返還(迷い犬が飼い主に戻ったケース)が9,997頭あり、およそ半数は飼い主の元に戻されています。
2022年6月に販売業者へのマイクロチップ装着が義務化され、個体識別の精度が上がったことは大きな前進です。しかし一般飼い主には「努力義務」にとどまっており、未装着のまま迷子になる犬も依然として多く存在します。

地域差という「見えにくい不平等」

犬の殺処分のワースト3、徳島県・長崎県・香川県とは反対に、神奈川県動物愛護センターは犬の殺処分ゼロを13年連続で継続しています(令和7年度まで)。同じ日本のなかで、生まれた地域によって犬の「生存確率」が大きく異なる——この格差は、統計の平均値には見えない「不平等」です。
殺処分が多い地域では、民間団体の活動が活発でないことや、自治体の予算・人員・方針の違いが影響しています。国全体での目標と、各自治体の現実のギャップを埋めていくことも、ゼロへの重要な課題です。

ゼロに近づくために——今できること、必要なこと

ここまで見てきたボトルネックをまとめると、次のような構造が見えてきます。
野犬・老犬・病犬など「譲渡困難な犬」が残り続けること、保護団体の76%が無償ボランティアに依存するという持続可能性の課題、厳格すぎる譲渡条件と広い受け入れの間で揺れる民間団体のジレンマ、毎年2,000頭が飼い主から手放される「需要側」の問題、そして自治体間の取り組みの大きな格差——これらが絡み合っています。
一つの解決策ですべてに対応することはできません。必要なのは、複数のアプローチを同時並行で進めることです。
制度面では、マイクロチップの一般飼い主への義務化拡大、ペットショップ生体販売の規制強化、野犬の社会化訓練施設への公的投資など。
現場面では、保護団体への安定的な資金援助と有償スタッフの確保、自治体間の知見共有と成功モデルの横展開、岡山市のような訓練施設の普及。
文化・意識面では、「ペットを迎える前に準備する」という教育・啓発、保護犬を選ぶことがスタンダードになる社会規範の形成。
そして、私たちが今すぐできることが、ペットを迎える際に保護犬を検討することです。引き取るまでいかずとも、信頼できる団体への寄付や里親審査への理解を深めたり、地域の保護活動を知り、関心を持ち続けることもその一助となります。

 


Q1. 現在、日本では年間何頭の犬が殺処分されていますか?
A. 環境省の最新データ(令和6年度:2024年4月〜2025年3月)によると、全国で引き取られた犬17,399頭のうち1,964頭が殺処分されました。1日あたり平均5頭以上の計算になります。2004年度の155,870頭と比べると79分の1以下になっており、長期的には劇的に減少しています。

Q2. 犬の殺処分はどのように分類されていますか?
A. 環境省は殺処分を3つに分類しています。①治癒の見込みがない病気や著しい攻撃性がある「譲渡不適切」ケース、②譲渡先が確保できないなどの「管理困難」ケース、③施設内での自然死ケースです。現在の傾向として②(通常の譲渡困難)を理由とした処分は多くの自治体でほぼゼロになりつつあり、残るのは主に①の医療的・行動上の理由によるものです。

Q3. 犬の殺処分が多い地域はどこですか?理由は何ですか?
A. 令和5年度データでは犬の殺処分ワースト1位が徳島県、以下長崎県・香川県と続き、四国・九州エリアに集中しています。この地域は野犬が多く、温暖な気候や雑木林・河川敷などの環境が野犬の生息に適していることが背景にあります。野犬は人との社会化ができておらず攻撃性が高いため譲渡が困難で、①「譲渡不適切」ケースとして処分されるケースが多くなります。

Q4. 保護団体の実態はどうなっていますか?
A. 「犬猫保護団体 活動白書2025」(全国176団体調査)によると、スタッフの約76%が無償ボランティアとして活動しています。また、保護団体が引き取る犬の74%は行政施設(動物愛護センター等)からという調査結果もあり、行政の「処分削減」方針の受け皿として民間団体が大きな役割を担っています。資金不足・人手不足・多頭飼育崩壊対応などによる団体の疲弊も深刻な課題となっています。

Q5. なぜ譲渡条件が厳しいのですか?問題はありますか?
A. 保護団体が厳しい譲渡条件(年齢・家族構成・住環境など)を設けるのは、譲渡後の飼育放棄を防ぐためです。ただし、少子高齢化・単身世帯増加という社会変化に条件が追いついていないという指摘もあります。条件が厳しすぎると里親が見つからず、施設の過密や保護活動の限界につながる場合があります。団体ごとに審査水準の見直しが求められています。

Q6. マイクロチップは殺処分削減に効果がありますか?
A. 効果があります。2023年度の統計では、引き取られた犬19,352頭のうち約9,997頭(約半数)が飼い主のもとに返還されています。2022年6月の販売業者へのマイクロチップ義務化が返還率向上に貢献しています。ただし一般飼い主には「努力義務」にとどまっており、未装着のまま保護される犬も多く存在します。義務化の一般飼い主への拡大が次の課題です。

Q7. 私たちが殺処分ゼロのためにできることは何ですか?
A. 大きく4つあります。①ペットを迎える際に保護犬を優先的な選択肢として検討する。②信頼できる動物愛護団体への継続的な寄付・ボランティア支援を行う。③マイクロチップ装着と情報登録を徹底し、迷子対策を怠らない。④飼い主として、最後まで責任を持って飼育する(転勤・引越し等でも手放さない前提で迎える)。加えて、自治体の動物行政への関心を持ち、地域の保護活動を知ることも重要です。