
SNSでは保護犬・保護猫の投稿があふれ、「殺処分ゼロ」という言葉も飛び交っています。でも、2026年の今も日本のどこかで、犬や猫が命を絶たれているのも事実。なぜ、ゼロにならないのでしょうか。
数字で見る「今」── データ上の殺処分は過去最少
環境省が発表した令和6年度(2024年4月〜2025年3月)の統計によれば、全国の保健所や動物愛護センターで殺処分された犬の数は1,964頭。統計開始以来、過去最少を更新しています(環境省:犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況, 2025)。
ピーク時の2008年度には約27万6千頭が殺処分されていたことを考えると、約15年で97%近い削減というのは大きな成果。しかし、1,964頭という数字を日割りにすると、毎日5.38頭の犬が命を失っていることになります。「過去最少」という言葉の陰で、今日もどこかで処分が行われている現実は変わりません。
また、令和6年度(2024年度)の引取り数は犬猫合わせて39,409頭にのぼります(公益財団法人動物環境・福祉協会Eva)。センターに収容された動物すべてが殺されるわけではありませんが、これだけ多くの動物が毎年「行き場をなくす」現実は変わっていません。
殺処分は地域差も
全国平均が改善する一方で、深刻な地域差も存在します。令和5年度のデータでは、犬の殺処分ワースト1位は徳島県、続いて長崎県・香川県となっています。一方で、神奈川県や奈良市のように長期にわたり殺処分ゼロを達成している自治体も存在します。同じ日本国内であっても、動物の命の重みに大きな格差があるのが実情です。
殺処分が減っている背景に潜む、“見えない死”
数字が改善しているにもかかわらず、ゼロに届かない理由は一つではなく、複合的な問題が絡み合っています。また、それらの原因や背景には、“目に見えない犬猫の死”が潜んでいることをご存じでしょうか。
①ペット産業の「大量生産・大量廃棄」構造
日本最大の問題の一つが、商業ブリーダーとペットショップの存在構造だ。日本では犬猫をペットショップで購入するのが一般的で、需要に応えるために大規模な繁殖業者が存在します。問題は、売れ残った個体や繁殖に使えなくなった「繁殖引退犬」の行き先です。
改正動物愛護管理法(2019年改正)により、自治体が業者からの引取りを拒否できるようになりましたが、根本解決には至っていません。悪質な業者が使い捨てた犬猫を野山に遺棄するケースも後を絶たず、それが新たな野良犬の発生につながり、保健所収容数を押し上げる悪循環が続いていますし、遺棄犬が野山で死亡しても、それは殺処分などのデータには現れません。
また、店頭展示販売による「衝動買い」が飼育放棄につながるという指摘も根強くあります。生き物をショーウィンドウに並べることで、その場で購入を決めさせるビジネスモデルは欧米には存在しません。
②「引き取り屋」という闇
統計には見えにくいのが、「引き取り屋」と呼ばれる業者の存在です。
行政の窓口で引取りを断られた飼い主が、有料でペットを引き取ることを業とする引き取り屋に頼るケースがあります。うまく里親につなげるマッチング主体の業者もある一方で、劣悪な環境で多数の動物を管理し、結果的に死亡させたり、虐待したりするところも存在します。これが数字上の殺処分は減っても、別の形で命が失われているという、統計では可視化されない現状です。
③民間団体への過負荷
「殺処分ゼロ」を自治体が標榜する一方で、その数字を支えているのは民間の動物愛護団体やボランティアの献身的な活動です。しかし、その裏側では深刻な問題が起きています。
自治体によっては、「殺処分数を減らす」という数値目標を達成するために、愛護団体に対して半ば強引に動物を押しつけ、プレッシャーをかけるケースもあります。団体には収容スペースも予算も限りがあり、過剰な保護はペースも予算も限りがあり、過剰な保護は多頭飼育崩壊を招くリスクも出てきます(公益財団法人動物環境・福祉協会Eva)。数字上の殺処分ゼロが、ボランティアの燃え尽きの上に成り立っているとすれば、それは持続可能な解決策とはいえません。
④譲渡のハードルと文化的背景
保護された動物を新しい家族に届ける「譲渡」の仕組みも、課題を抱えています。日本では保護施設の環境が整っておらず、複数頭を一緒に管理するケースが多くあります。また、里親希望者への審査が厳しすぎて敷居が高くなっているケースも見られます。
一方で、ペットショップでの衝動買いという「カジュアルな取得ルート」が残る以上、保護犬・保護猫を迎えるという選択肢はまだまだマイノリティに留まっているのが現状です。
⑤法改正は進んでいるが、「抜け穴」も
日本の動物愛護管理法は数度の改正を経て、着実に強化されてきました。
2019年の改正では、販売業者へのマイクロチップ装着・登録の義務化(2022年6月施行)と、ブリーダーなどへの数値規制(1人あたりの飼育頭数上限、ケージサイズなど)が盛り込まれました。動物虐待への罰則も、懲役5年または罰金500万円(改正前:懲役2年・罰金200万円)へ引き上げられ、厳罰化されたと言えます(日本愛玩動物協会, 2020)。
また、不妊・去勢手術については「みだりに繁殖させないよう努める」という努力義務から、義務化へと格上げされています。
しかしながら、マイクロチップは普及しつつあるものの、一般飼い主については努力義務にとどまりますし、ブリーダーなどへの数値規制も「指導・勧告」が主体で、実際に劣悪な業者が摘発されるケースは限定的です。制度の整備と実効性の確保には、まだ大きなギャップが残っているのです。

世界の状況── ドイツ・アメリカの例
ドイツ:「ティアハイム」という民間の砦
ドイツが「動物保護先進国」と呼ばれる理由の核心にあるのが、「ティアハイム(Tierheim)」という民間の動物保護施設です。各地の動物保護協会が運営するこの施設は全国に500ヶ所以上存在し、ドイツ動物保護連盟はティアハイムの運営方針において「基本的に殺処分をしてはならない」と定めています。毎年約1.5万頭もの動物がティアハイムに保護され、そのほとんどが新しい飼い主のもとへと渡るなど、保護犬を飼うという選択が市民にも浸透しています。
加えて、見逃せないのが「犬税(Hundesteuer)」の存在です。ドイツでは犬を飼う飼い主に年間課税があり、衝動的なペット取得が抑制されるとともに、税収がティアハイムなどの運営支援に回る仕組みが機能しています。
ただし、ドイツの「殺処分ゼロ」を額面通りに受け取ることには注意も必要です。ドイツには「狩猟法」が存在し、農業者が害獣として猫や犬を射殺することが合法とされる場面もあります。「シェルター内の殺処分ゼロ」と「国全体での動物の死亡ゼロ」は、別であることも忘れてはいけないでしょう。
アメリカ:「ノーキル運動」の拡大と残る課題
アメリカのシェルター文化は、ドイツとも日本とも異なります。歴史的に公的機関(アニマルコントロール)による大規模な安楽死が行われてきましたが、2000年代以降に「ノーキル(No Kill)運動」が急速に広まりました。
ASPCA(アメリカ動物虐待防止協会)の統計によれば、2019年は全米でシェルター収容動物の約13%が安楽死処分となっていましたが、2024年には安楽死率が8%まで低下したというデータがあります。約60万7千頭が安楽死されていることを考えると決して小さな数ではありませんが、ピーク時の1970年代は年間1,000万頭以上が殺処分されていたことを踏まえると、劇的な変かです。
カリフォルニア州では、ペットショップでの犬猫の店頭販売を州法で禁止しており、ペットを迎えたい場合はブリーダーから直接購入するか、シェルターから譲渡を受けるかの二択となっています。
フロリダ州のマイアミでは、税収によって大規模な保護施設が運営されており、オープンな雰囲気で里親とのマッチングが行われています。施設の様子などは、アニフェアの記事からも確認できます。

民間によるシェルター運営も広がりを見せており、オープンアダプションなどの取組みを通じて、ノーキル運動を後押ししています。

殺処分ゼロへの道── 必要な3つのシフト
日本が真の意味での「殺処分ゼロ」に向かうには、以下の変革が不可欠だと考えられます。
1.産業構造の転換
ペットショップでの生体販売の規制・廃止、ブリーダーへの数値規制の実効的な執行、「売れ残り」を出さない流通構造への転換が求められます。
2.インフラの整備
公的・民間シェルターへの継続的な財政支援、ミルクボランティアをはじめとする個人ボランティアへのバックアップ体制、「犬税」のような経済的インセンティブの検討。
3.文化・意識の変革
「保護犬・保護猫を迎えることがスタンダード」という社会規範の形成、動物は「命ある存在」であるという教育の充実、動物愛護を一部の人の活動ではなく、社会全体の課題として認識していくことが大切です。
法律を変えるより、文化を変える方が難しいかもしれませんが、ドイツやアメリカの変化は、数十年をかけてそれを成し遂げてきたことを示す一端です。
Q1. 現在、日本では年間何頭の犬が殺処分されていますか?
A. 環境省が発表した令和6年度(2024年4月〜2025年3月)データによると、1,964頭です。2008年度のピーク時には約27万6千頭が殺処分されていました。約15年で97%近い削減が達成されています。ただし、行政センターへの引取り拒否や民間団体への移管など、「統計に見えない命」の問題もあります。また、殺処分数自体は過去最少ですが、日割りにすると毎日5頭以上が命を失っている計算になります。
Q2. 殺される犬猫は本当に減っているのですか?
A.データ上の殺処分は減っているものの、ブリーダーによる不法投棄による化、保護施設の多頭飼育崩壊や事業継続不可といった事情による統計上は現れない死亡数はむしろ増えているとも推測されています。
Q3. 殺処分ゼロにならないのはなぜですか?
A. 主な理由は複合的です。①ペット産業の大量繁殖・売れ残り問題、②「引き取り屋」など統計外の問題、③民間団体への過剰な負担集中、④譲渡文化の未成熟と里親のハードル、⑤法律の実効性──などが絡み合っています。
Q4. ドイツはなぜ「殺処分ゼロ」に近いのですか?
A. 民間が運営する「ティアハイム(動物保護施設)」が全国500ヶ所以上あり、基本的に殺処分を行わない方針を徹底しています。また「犬税」制度が安易なペット取得を抑制し、里親審査で飼い主の責任意識も高められています。ただし狩猟法に基づく駆除など「シェルター外」の問題も存在します。
Q5. アメリカの状況はどうですか?
A. ノーキル運動の浸透により、2024年のシェルター安楽死率は約8%まで低下しました。カリフォルニア州ではペットショップでの生体販売が州法で禁止されており、シェルターからの譲渡が身近な選択肢として定着しています。
Q6. 日本の法律はどう変わりましたか?
A. 2019年改正・2022年施行の動物愛護管理法により、販売業者へのマイクロチップ装着義務化、ブリーダーへの数値規制(飼育頭数・ケージサイズ等)、不妊・去勢手術の義務化、虐待罰則の強化(懲役5年・罰金500万円)などが導入されました。ただし一般飼い主のマイクロチップは努力義務にとどまり、実効性のギャップも指摘されています。
Q7. 私たちにできることは何ですか?
A. 動物を迎える際に「保護犬を選ぶ」という選択、不妊・去勢手術の実施、マイクロチップの登録、最後まで責任を持った飼養──こうした一人一人の行動の積み重ねが、殺処分数を動かす最大の力です。また、信頼できる動物愛護団体への寄付・ボランティアも大きな支えになります。









