
「保護犬」という言葉を聞いたとき、あなたはどんな犬を思い浮かべますか?
道端に捨てられた犬。野山を駆け回る野犬。ボロボロで怯えた目をした子犬——。きっと多くの人が、そんなイメージを持っているのではないでしょうか。
でも実は、「保護犬」 という言葉の裏には、 私たちが思っている以上に多く の顔があるのです。
環境省のデータによると、2024年度に殺処分された犬の数は1,964頭(前年の2,118頭から154頭減)。数字だけ見れば「減ってよかった」と感じるかもしれません。でもその数字の向こうには、それぞれの事情を抱えて保護施設に辿り着いた犬の厳しい現実、そして数字にすら表れない「命を奪われた犬たち」という現実があります。
今日は、「保護犬が生まれる理由」とその裏に潜む現実をお伝えしたいと思います。

① 飼育放棄の裏側——「簡単に 手放す人たち」
コロナ禍、外出自粛が続く中で「ペットを飼いたい」という人が急増しました。孤独を埋めたかった人、子どもに動物を触れさせたかった人、単純に癒しを求めた人——動機は様々です。
ふわふわの毛並み、ちょこちょこと走り回る小さな足。飼い主に呼ばれるたびにしっぽを振って、抱きしめられるたびに目を細めていた。それが「普通の毎日」だったはずなのに。
コロナが明け、生活が元に戻ったとき、「こんなに大変だとは思わなかった」と手放すケースが後を絶ちませんでした。
「無駄吠えがひどく近所迷惑になった」
「噛むようになって、 子どもが怖がっている」
「引っ越し先がペット不可だった」
「入院することになり、世話する人がいない」
「通勤が再開し、留守番ばかりなので、別の人に飼われたほうが幸せだろう」
こうした「飼育放棄」は、必ずしも”悪意”から生まれたわけではないかもしれません。でも、知識が足りなかった。準備が足りなかった。そして、犬とともに暮らす生活や犬の生態を想像できていなかったという、スタートがそもそも過ちだらけなのです。
さらに見落とされがちなのが、犬が10〜15年生きること。高齢の飼い主がある日突然倒れ、施設に入居せざるを得なくなる。飼い主の病気・ 入院・ 死亡によるケースでは、残された犬に行き場はありません。そして犬は、保護施設に送られるか、そのまま放置されるのです。

②統計に現れない死——「見えない殺処分(流通過程の死)」
ショーウィンドウの向こうで、無邪気に遊んでいる子犬たち。「かわいい」と足を止めたことがあるかもしれません。
でも、その子犬がどこから来たか、考えたことはありますか?
ペットショップに並ぶ子犬の多くは、繁殖業者( ブリーダー) から仕入れられています。さらに動物愛護法によって、販売できるのは生後8週(56日)を過ぎた犬と定められているため、子犬の「売れ期」は、わずか数週間。
売れ残って値引きされてもまだ買い手のつかない犬は、繁殖用に回されますが、それもごく一部。多くは餓死や病死によって“殺され”たり、引き取り業者に流され、環境省の統計には現れない「見えない殺処分(流通過程の死)」となります。こうした「見えない殺処分(流通過程の死)」は、年間2万匹にのぼるのではと推測する業界関係者もいます。
保護犬は、 雑種や野犬ばかりではないのです。

③ブリーダー崩壊——「人気がある犬種を生産するだけ」
トイプードル、チワワ、ダックスフンド——いわゆる「純血種」の、しかも「子犬」が、保護施設に大量に送られることがあります。そのひとつが、ブリーダー崩壊。在庫切れを防ぐよう、常に子犬が生まれるほど多くの繁殖犬を飼うものの、効率性だけを考慮し狭いケージに何頭も詰め込んだり、散歩や医療ケアはほとんどしないというケースも見受けられます。
ブリーダーが廃業したり、経営が破綻したりすると、そこで育てられていた犬たちは一斉に行き場を失い、保護犬となってしまい、ついには子犬を含め全ての犬が放置される「ブリーダー崩壊」となってしまいます。ブリーダー崩壊の現場では、まだ生後数ヶ月の子犬が、ガリガリに痩せた状態で発見されることも珍しくありません。
最近では純血種だけでなく、人気の犬種をかけあわせた「ミックス犬」の人気も高く、様々な犬種を扱うブリーダーも増えています。血統を守り、犬種ごとの特性を理解しながら繁殖させるのが、本来のブリーダーのはずですが、今や玉石混交なのが実情です。

④多頭飼育崩壊——「善意が引き起こす悲劇」
「かわいそうで、捨てられなかった」
多頭飼育崩壊の現場を取材した人たちが、口をそろえて言うのがこの言葉です。
最初は1頭か2頭だった。でも、迷い犬を拾って、繁殖して、「この子たちを誰かに渡せない」という気持ちが積み重なって——気づいたときには、管理しきれない頭数になっていた。そんな多頭飼育崩壊も全国で発生しています。
熊本県では、ある一軒家から 62匹もの犬が保健所に引き取られた事例があります。想像してみてください。62頭の犬が、まともなケアもされずに狭い空間で生きていた現実を。劣悪な衛生環境、十分に与えられない食事、医療を受けられない傷や病気——それが、「保護犬」が背負う一つの現実です。

⑤ 迷子・ 災害・ 虐待——「予期せぬ事情で生まれた保護犬」
保護犬が生まれる理由は、まだあります。
迷子になって帰れなかった犬。首輪が外れた、リードが切れた、ドアの隙間から逃げてしまった——飼い主がどれだけ探しても、見つからないことがあります。保護されても、飼い主が現れなければ、その犬は「保護犬」として登録されます。こうした“脱走”は珍しくなく、どれだけなついている犬でも起こりえます。そのため、保護団体や犬の性格によっては「電子タグなど、脱走対策をしっかり講じること」と条件が提示されることもあります。
また、震災・ 水害などの災害で引き離された犬。東日本大震災でも、熊本地震でも、多くのペットが飼い主と離ればなれになりました。避難所にペットを連れて行けず、やむを得ず置き去りにされた犬もいました。
そして、虐待や不適切な飼育から救出された犬。これが最も心が痛むケースかもしれません。人間に傷つけられた犬は、長い時間をかけて少しずつ「人間は怖くない」と学んでいきます。
どのルートで来た犬にも、そこに至るまでの「物語」がある。それを知ることが、保護犬を理解する第一歩です。

保護犬のために、私たちができること
最後にお伝えしたいのは、知ることが 最初の一歩であるということ。
「知ること」 は、 立派なアクションです。
「保護犬=成犬・雑種」というイメージは、もう過去のものです。
ペットショップで犬を買うという行為が、 間接的にブリーダーの過剰繁殖を支えている側面がある——これは批判ではなく、私たちが知っておくべき構造の話です。
里親になること、一時預かりボランティアをすること、寄付をすること——どれも素晴らしい関わり方です。でも、そのどれもできなくても、「保護犬がどうやって生まれるか」を知って、誰かに話す。SNSでシェアする。それだけで、確実に何かが変わります。
次に犬を迎えたいと思ったとき、ペットショップではなく、保護犬という選択肢を一度思い出してみてください。
純血種も、子犬も、穏やかな成犬も——保護施設には、あなたを待っている犬がいるかもしれません。あなたの「知ること」が、一頭の犬の人生を変えるかもしれない。
そしてその一滴が、大きな波紋となって社会を動かすかもしれません。
Q.保護犬がなくならない理由はなんですか?
A.個人の飼育放棄(捨て犬)のほか、ブリーダー崩壊(飼育しきれない、利益が出ず廃業など)、多頭飼育崩壊(数多く飼いすぎて面倒を見きれない)、そしてペットショップで売れ残り行き場がなくなった「見えない殺処分」が主な原因です。
Q.「見えない殺処分(流通過程の死)」は、どれくらいの数になりますか?
A.ブリーダーやペットショップを通じて流通するうちの約3%と推測され、その数は年2万匹近くになると報道されたことがあります。さらに、この数は登録業者の報告からの試算であり、未提出や虚偽記載の可能性がある業者分を反映すると、実際はこれより多い可能性があるという研究結果もあります。環境省の最新公表では、令和6年度の自治体による犬猫の殺処分数は6830頭ですが、実際にははるかに上回る3万匹以上の犬が命を失っているのです。
Q.見えない殺処分がなくならないのはなぜですか。
A.売れ残りや繁殖引退犬、疾患や「規格外」とされる見た目の子は、市場に出回らずに処分されることがあります。また、法律改正によって自治体(保健所など)は業者からの処分依頼や持ち込みを拒否できるようになり、統計に表れない形で処分されていると考えられます。
「この記事が、誰かと1匹の運命を変えるきっかけになりますように。」







